ベッドに横になったものの、大きく波がうねる度に揺れる船に耐え切れず、あたしは起き上がると、横で寝息を立てて眠るフィオーネを起こさないように、静かに船室の外へと出た。
夜風に当たろうと思ってそのまま、甲板へと向かう。
アリルアを出発してから丸四日。
あたしはまだ大海原をゆっくりと航行する船の上に揺られていた。
目に映る光景は延々と続く、大海原に静かにうねる波だけ。
他に見える物といえば、見上げた空に交互に昇る太陽と月と星。
暁の祠でツキオウに次の目的を教えてもらったあたし達は、大急ぎで出発の準備を済ませて、東大陸へと向かっている途中だ。
今回は遠出になる為、小さなシャルロットとレナードはアリルアでお留守番。
シャルロットを一人置いてゆく訳にも行かず、満場一致……というか。
レナードは絶対について行く! と言い張ったけれど、普段から教会で孤児達に世話を焼いているレナードが適任だ、と、ジオルドとフィオーネが半ば強引にシャルロットの世話役をレナードに押し付けた――……と、言った方が正しいのかも知れない。
今回の旅のお供はジオルドとフィオーネ、それから騎士団の騎士が数人。
旅の目的は勿論、ツキオウを解放する為に必要な聖宝を探し出すのが大前提だけど、それとは別に突然いなくなってしまったアベルを探すことも目的の一つだ。
東大陸は遥か離れた遠方の地である事と他国にあたる為、竜を使用して大陸間を行き来する事は出来ないらしく。
よってこうして船に揺られている訳なんだけど、東大陸に到着するのは明日の夕方になるとの事。
しかもすぐにミストリア帝国に行ける訳ではないらしい。
平和同盟を結び、友好関係にあるアリルアとミストリア帝国は、本来なら面倒な手続きなしで自由に行き来が出来ていたそうだ。
だけど、月が異変を起こした直後から各国で不穏な噂が飛び交い、魔物も凶暴化しているからとか、色々な諸事情が絡み、今は入国手続きをしないと東大陸には入る事が許されない。
先に東大陸へ渡ったアベルは、ミストリア帝国から直々軍使招請を受けている為、面倒な手続きは一切なしで直接ミストリア帝国に向かえたそうだ。
そんなアベルとは違ってあたし達は完全に観光客扱い。
例え、アベルと同じ騎士団に所属し、その位置付けが副師団長であるジオルドが同行していようが、特例は認められない。
あたし達が東大陸に入る為には、まず大陸の南端に当たるフォレスという港町に行かなければいけない。
フォレスの町に設けられた関所で入国手続きを済ませて、初めて東大陸に入る事が許される。
ミストリア帝国は東大陸の中央部に位置し、フォレスからだと途中に広がる広大な砂漠を越えないと辿り着く事が出来ない。
東大陸にさえ行けば、すぐにでもミストリア帝国に行けると思っていたけど、その道のりは長くなりそうなものだった。
四本のマストに大きく張られた帆が時折、強く吹く風にバタバタと大きな音を立てる。
甲板に出たあたしは吹き上がる風に乱れる髪を押さえながら天を仰いだ。
見上げた空に満天の星が広がる。
アベルが居なくなってしまってから、早いものでもう二週間近くになる。
逢いたい気持ちは積もる一方なのに、なかなか思うように距離は縮まらなくて、もどかしさに地団駄を踏みたくなる。
今、どこで何をしているの?
今、何を思っているの?
あたしの事、ほんの少しでも考えてくれている?
あたしはいつもアベルの事を考えているよ。
アベルの事が片時も頭から離れない。
異世界から来たあたしがこの世界に来て、アベルに出逢えた事は奇跡に近いんだと思う。
同じ空気を吸って、同じ大地に立って、こうして同じ星空を見上げている。
それだけでも幸せなんだって、思わないといけないのかも知れない。
だけど、それでも傍にいたい。
片想いでもいいから、ただ、傍にいられたら、それだけであたしは幸せだから。
見上げた星空がぼんやりと歪んで滲む。
涙と一緒に抑え切れない想いが溢れ出して、止まらなくて。
「会いたい……会いたいよ、アベル……ッ」
あたしは揺れる波間に向かって叫んでいた――――
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360度ぐるりと何度見渡しても大海原しか見えない景色。
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